スピ−カ−・システムにおける仮想点音源と位相制御の追求 NO.3


       ジョン・メイヤ−氏が語る
      ”メイヤ−・サウンド・フィロソフィ−”
                 訳 ロナルド・ハドリー


**スタジオモニターのリニアリティー**

Q;スタジオ・モニターとSRスピーカーのデザインを比較してそのアプローチになにか違いがありますか?「メイヤー・サウンド」では、その区別をどのように付けているのですか?

A;根本的な考え方が違います。「ウルトラ・モニター」のようなSR用のステージ・モニターの場合は、ヴォーカル以外の周囲の音がヴォーカル・マイクにカブッてくる可能性があります。ですからヴォーカルがシャウトするようなとき、音圧レベルはかなり高くなるのでシステムはフルパワーで駆動します。その瞬間、システムの高域と低域がゆるやかにカットされ、ヴォーカルがよりクリアーに聴こえるようになっています。
 それに対してスタジオ・モニターにはそのような周波数制御のプロセッシングがありません。とても古典的なまったくのリニアー・システムになっています。ただし温度上昇に対して保護ができるようにRMSリミッターが入っています。
 ですから、なんの補正も行われないので大きい音圧レベルで作動させれば低音と高音が大きく聴こえてきます。スタジオ・モニターに関する根本的な考え方は、ディスクから出てくる音を正確に聴けることで、そのための精密度が必要であるということです。
 それについておもしろい話を思い出しました。3年ほど前にスティービー・ワンダーと関係するようになった頃の話です。そのとき彼が自宅とスタジオで使っていたスピーカー・システムはとてもよく作られたものでしたが、過度に駆動するとなんの表示もなく高域が少しカットされてしまうのです。だからスティービーが「833」スタジオ・モニター・システムを使い始めたとき、彼の音楽にとってはサウンドがあまりにもブライトすぎると感じていました。
 そこで私たちは、スタジオ・モニターでは、必ずしもこのような周波数帯域でのプロセシングが必要ではないことを説明しました。彼は、自分の音楽をかなり大きな音量レベルで聴くことが好きなのですが、前のスピーカーでは高域が実際に20dBもカットされていました。だからカッティングされたレコードの音が、とてもブライトになっていたのです。
 スタジオ用の製品として私たちが出したかったシステムは、基本的に”正確な”ものです。多くのスタジオ用のスピーカーは、音量が大きくなると、低域が少し下がったり音量が小さくなると低域が増えたりして、”フレッチャー&マンソン”のラウドネス曲線をうまく応用しているわけです。小さな音量では、低音が持ち上がっていて、レベルが上がれば低音が下がるので”心地よい”サウンドではあります。
 「833」の場合は、小さな音量でも、とっても大きい音量レベルでも周波数特性は同じです。このため、リスナーのほとんどは、大きい音量レベルでは低音が出すぎていると感じます。音量が大きくなると、低音がもっとはっきり聴こえるようになるというのは人間の耳の一つの特徴であり、スピーカーのせいではないのです。
 「833」の周波数特性を測定すると、それが分かると思います。とても低いレベルから始めて、オーバーロード状態になるまでを10dBごとに測定してみると、その周波数特性は変わらないのです。
それは周波数制御の音量変更のような操作が全然行なわれていないからです。それがこの製品の根本的な哲学なのです。クライアントは、このスピーカーのリニアリティーに慣れてしまうと本当にそれを好むようになりますが、慣れるまでには時間がかかります。
 わたし達は、人気の高いスピーカーが入っているスタジオを訪れて、そのスピーカーの周波数特性を測ってみました。そこでは、音量レベルを10dB上げると、低域が6〜7dBも下がることが分かったのです。さらにレベルが上がるにつれて、低域高域が減衰されて、聴きやすい、心地よいサウンドになります。
 そしてエンジニアは喜んでこの音でミックスダウンするわけです。「833」を聴くと、彼らが聴き慣れている音とは違うことが分かります。これはダイナミクスの変化による問題なのでイコライジングで修正することはできません。
 デジタル・オーディオ技術が進歩する一方で、アナログ・レコーディングにおける音質劣下への配慮がそのまま引き継がれています。デジタル録音では、ダイナミックレンジだけでなく、音質劣下に関する諸問題がほとんど存在しません。
 今、新しいデジタル世代の新しい技術を持ったエンジニアが育っていますが、アナログ・レコード時代のエンジニアもまだ大勢います。CDで高域のきついサウンドを作ってしまうのは後者の方なのです。彼らはアナログ録音の”癖”で高域を上げてしまうので、それがCDではそのまま残ってしまうわけです。そして、その高域のきつさがCD制作におけるデジタル技術のせいにされてしまうのです。
 CDの高域周波数を10dBか20dBカットすると、聴きやすい音になることも稀でありません。スタジオ・モニターの周波数特性を10KHzで10dB落とすことは、スタジオではごく一般的な手法として行われています。これが、アナログ・レコードでは、高域のきれいな音になるのですが、デジタルで再生すると”耳ざわりで、とげとげしい音”になってしまうのです。
 このようなことは、結局、教育の問題なのですね。でも聴覚の鋭いエンジニアのデジタル録音の労力によって、その問題がなくなる方向に向かっています。だから、「833」というのはリニアー・システムの時代に先んじた試みであったわけです。
これを一般の人に理解してもらうのには時間がかかるでしょう。
 これは私の意見なのですが、現在、とくにヘッドフォンを使う場合が増えているので、一般の人達のリスニング環境はスタジオより上かもしれません。これは、スタジオの音響条件を改善しなければならないというプレッシャーになるでしょう(笑)。
 しかし、私が訪れたことのある多くのスタジオではそのことに対して耳を塞いでいます。名前は言いませんが、ある大きなスタジオのオーナーは、「833」を買えば問題点が全部聴こえてしまうので仕事がやりにくくなると言っていました。
 だからスタジオのオーナーの「833」に対する考え方は、どんなに小さな問題でも聴こえてしまうから、仕事の進行を遅らせる製品だと考えています。
 つまり精度の高いスピーカーを作るということは、とてもエキサイティングなことで、技術的にはどこまでも進歩させることが可能です。しかし、その限界というのは、技術的なことではなく、マーケット全体の考え方に関わることだと思うのです。現時点で、「833」以上の性能の製品を発表したとしても、あまりメリットはありません。
 それよりも重要なことは、哲学的な部分に人々の目を向けさせることです。マーケットに新製品を出して、新しい技術開発を促進することよりも、新しい概念についてマーケットを教育することの方がより大切なことなのです。



 上記の事柄からスタジオモニターSPがどのような状況で使用されているのかが良く分ったと思います。現状では、この問題は、当時よりも改善されていると思います。
 CDが最初に出たときはハイ上がりのCDが多かったことも記憶されている方も多いのではないでしょうか?
 技術が高度に成ればなるほど使用する人の考え方や思想(少し大げさですが)が最大のネックになってくることが現実だと私は常に感じています。

 こんなくだらない(このホームページのこと)事ばかりやっていますが、少しでも多くの人に理解して頂ければと考えています。これからも宜しくお願い致します。

 次回に続く!!


**文章が、意味不明な部分が有りましたら申し訳有りません**


上記の資料が、古い為、現在では、常識の部分がありますが、再認識をして頂ければ幸いです。
また、上記の資料は、プロサウンドの記事を抜粋させていただきました。

貴重な文献に対して感謝いたします。有り難うございます。


**質問、感想等が有りましたら、ast@ast-osk.comまでお願いいたします。**


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